我が国は、2020年10月に、2050年までにカーボンニュートラル※を目指すことを宣言した。また、2021年4月には、2030年度の新たな目標として、温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指し、さらに50%削減に向けて挑戦を続けるとの新たな方針を示した。なお、世界では、120以上の国と地域が2050年までのカーボンニュートラルの実現を表明している。
※カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすること
上記に関して、以下の資料①、②を参考にしながら、次の(1)、(2)の問いに答えなさい。
(1) カーボンニュートラルに関する取組が我が国にとって必要な理由を簡潔に述べなさい。
(2) カーボンニュートラルを達成するために我が国が行うべき取組について、その課題を踏まえつつ、あなたの考えを具体的に述べなさい。
2022年の国家公務員一般職の採用試験問題です。大学入試と違って「長〜い課題文」が出ないので、初心者の練習問題としてちょうどいいんじゃないでしょうか?
どう書くか考えてから、または実際に答案を書いてから、続きを読むといいですよ。
「大きいテーマ」で考えない
よくある環境問題ですね! 何回か書いたことあるんで余裕です!
自信満々ですねえ。では「(1)カーボンニュートラルに関する取組が我が国にとって必要な理由」から答えてもらいましょうか。
【(1) ガッカリ答案】
現在、地球温暖化は深刻化している。日本でも異常気象が増え、毎年のように記録的な豪雨や水害に見舞われている。地球温暖化の原因は二酸化炭素だ。二酸化炭素を減らすために石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料の利用を減らし、二酸化炭素の排出量をゼロにすることは日本の防災にとっても地球の環境にとっても大切なことだ。
この答案、テーマが「環境問題について」または「地球温暖化について」だったらOKでした。(それでも「わかりきっていること」を並べた感じはありますが)
でも、問題をもう一度よく見てみましょう。何度も登場するキーワードがありますよね?
えっと・・・カーボンなんとか?
それ大事ですか?
グラフをパッパッと見て、「よくある環境問題」と早合点してしまったようですね。
問題文の注釈には「※カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすること」と書いてあります。
さらに、資料①には「排出量と吸収・除去量の差し引きゼロ」と書いてあります。
今回のテーマ「カーボンニュートラル」とは、「排出量をゼロにする」ことではなく「排出量を吸収・除去量で相殺する」こと。「ニュートラル(neutral)」とは「中立、プラスマイナスゼロ」という意味です。
つまり「(1)カーボンニュートラルに関する取組が我が国にとって必要な理由」に対しては、
- 日本が二酸化炭素の排出量を削減すべき理由
- 日本が二酸化炭素の吸収・除去にも力を入れるべき理由
という2つの視点で書く必要があるわけです。
たしかに、削減のことしか書いていませんでしたね。
ニュートラルって、よくわからなかったので無視しちゃいました。
問題文や資料をパッと流し読みして「大きいテーマ、よくあるテーマ」ととらえてしまうと、出題者が指示している「この問題の特徴」を見落としてしまいます。
「いつもの環境問題の出題とはどこが違うんだろう?」と考えながら問題を読むといいですね。
「我が国」特有の事情を考えよう
日本が二酸化炭素の排出量を削減すべき理由
でも、さっきの解答例は「削減すべき理由」は正しかったんじゃないですか? 地球温暖化で異常気象増えてるし。
たしかに異常気象の指摘は間違っていません。
が、それは他の国でも同じことですよね。「我が国」が二酸化炭素削減、化石燃料削減に取り組むべき、日本ならではの事情って何でしょう?
日本が石油や天然ガスを輸入に頼っているから? エネルギーを自給するには化石燃料以外に切り替えなきゃいけないんじゃないかな?
いいですね! 国際情勢が悪化して石油や天然ガスを輸入できなくなったら、わたしたちの生活も産業もストップしてしまいます。そうならないようにエネルギーを確保することを「エネルギー安全保障」と呼びます。
日本が二酸化炭素の吸収・除去にも力を入れるべき理由
発電に使う石油や天然ガスを減らすには?
他のエネルギーですよね。太陽光とか風力、水力、あと原子力・・・
それが簡単にできたら苦労しないですよね?
あ、そうか! 欧米と違って日本は原子力発電に消極的ですよね。福島の原発事故以来、たくさんの原発が止まったままです。二酸化炭素を出さない原子力に切り替えられないから、吸収や除去を増やす必要があるとか?
「日本特有の事情」が見えてきましたね。
「地球温暖化」と大きく括ると「異常気象」と書きたくなりますが、
「日本が取り組む必要性」と狭く括ると、この国特有の事情が見えてきます。
【(1) スッキリ答案】
資料①に示されるように、カーボンニュートラルとは、CO2の排出量を削減すると同時にCO2の吸収・除去も進め、全体として排出量をゼロにする取り組みである。化石燃料から他のエネルギーへの転換は、二酸化炭素排出を削減するのみならず、日本が輸入エネルギーに依存している状況を脱却するためにも必要である。しかし東日本大震災以来、多くの原発が停止した状態の日本では原子力発電に切り替えることも容易ではない。したがって二酸化炭素の吸収や除去の取り組みを進めることで、地球温暖化対策に貢献している姿勢を世界に示す必要がある。以上がカーボンニュートラルに日本が取り組むべき理由である。
【ガッカリ答案】とは全然違う内容になりましたw
ちゃんと「カーボンニュートラル」を理解した上で書いたって感じですね。
吸収・除去の必要性と、日本がそれに取り組む必要性がしっかり書かれていますね。
まとめ
環境問題や少子化など、小論文の「頻出テーマ」はいくつかありますが、
出題者は一つ一つの問題に何か工夫を凝らしているものです。
問題文や資料をじっくり読んで「他の出題と違う点」を見つけるのが高得点のカギです。
今日はここまで。
(2)の書き方は、次の機会に!
代々木ゼミナール講師時代、小論文を「文章表現ではなく問題解決の科目」と再定義することで合格率を倍増。総合型選抜・学校推薦型選抜の個別指導では早慶医学部を含む第一志望合格率が9割を超える。1万5千本以上の添削指導を通して受験生の「書けない心理、伝わらない原因」を知り尽くす。
そのノウハウをまとめた参考書「何を書けばいいかわからない人のための小論文のオキテ55」(KADOKAWA)はシリーズ25万部超のベストセラーとなる。またNHK Eテレ「テストの花道」出演、朝日小学生新聞・朝日中高生新聞の連載などメディアでも活躍。
現在は文章スキルと問題解決の講師として大手企業の社員研修に数多く登壇。受験のみならずビジネスでも通用するメソッドであることを証明している。
東北大学大学院文学研究科修了。合同会社ロジカルライティング研究室代表。
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