小論文って、自分の意見を書くものですよね?
でも過去問を見たら「下線部について説明せよ」ばかりだったんですけど?
小論文は「問題点+解決策」だっていう話、あれウソだったんですか?
まあまあ、落ち着いて(笑)
「小論文」なのに意見(問題解決)が求められない出題って、たまにあるんですよ。
実際の入試問題を分析してみましょうか。
難関大学でも出る!?「意見」を求めない小論文
北海道大学法学部後期の小論文
いわゆる難関大学なのに「意見」ではなく「内容説明」を求めてくる問題といえば、
北海道大学法学部の後期試験です。
(受験生によく相談されます)
2023年の問題を見てみましょう。大問が2つあり、それぞれ問1と問2に分かれています。
北海道大学 法学部 後期試験 2023年
大問1
問1 下線部①「『言語行為』に対して『物語行為』という概念を処置する」について、「言語行為」との対比における「物語行為」の特徴を説明しなさい。その際には、「話す」と「語る」との違いを具体例として用いること。(350字)
問2 下線部②「証言の食い違いは、過去の事実と早期との対立なのではなく‥‥彼らの他の発言や別の目撃者の証言との「整合性」によって決められるほかはない」の意味を説明しなさい。(500字以内)
大問2
問1 バラク・オバマに見られるテクノクラート的な政治の特徴は何か、本文に即して説明しなさい。(250字以内)
問2 筆者はテクノクラート的な政治にどのような問題点があると考えているか、本文に即して説明しなさい。(500字以内)
一般的には問1が「下線部を説明しなさい」、問2で「あなたの意見を述べなさい」という形式が多いものです。
でも、この問題を見るとどの設問も「説明しなさい」ですね。
こういうときは、設問に素直に従って「課題文や下線部の説明」をしましょう。
国語の記述問題と似ていますが、字数が500字と多いので具体例などは自分で補う必要があります。
本文に書いてあることを説明すればいいんですね?
自分の意見を考えるよりカンタンじゃないですか!ラッキー☆
でも、こういう問題って課題文がめっちゃ難しいんですよ。
読んで理解するだけで一苦労です。
そっか、やっぱり甘くはないんですね・・・
過去問を通して見ると意外な発見が・・・
これから北大法学部を受ける受験生は、「自分の意見」を書く練習も、問題解決の練習も必要ないってことですか?
そう思うでしょ? ところが前年の出題を見ると、そうでもないんです。
北海道大学 法学部 後期試験 2022年
大問1 問2 闘技民主主義による熟議民主主義に対する批判についてどのように考えるか、あなたの意見を論じなさい。(500字以内)
大問2 問2 ジェントリフィケーションが起こる原因に関して、消費サイド説と生産サイド説のいずれに説得力があると考えるか、あなたの意見を論じなさい。
あれ?! 2問とも「あなたの意見を論じなさい」だ!
北海道大学 法学部 後期試験 2021年
大問1 問2 下線部②「公共的な空間が‥‥成約が不可欠である」について、公共空間から特定の人物による排他的な占有だけでは排除されなくてはならないと筆者が考えるのはなぜか。インターネットをめぐる問題の状況に即して、そこでいう排他的な「占有」と現実の公共空間における占有の共通点を明らかにしながら、説明しなさい。(500字以内)
大問2 問2 ダールの「ポリアーキー概念」とシュンペーターの「民主主義の最小定義」にはいかなる共通点と相違点があるか。本文に即して説明しなさい。(500字以内)
2021年は2問とも「説明しなさい」ですね
北海道大学 法学部 後期試験 2019年
大問1 問2 地球の最善の統治のために、国境はどのように引かれるべきか。統治担当者と統治責任者の違いを踏まえて筆者の主張を説明しなさい。(500字以内)
大問2 問2 下線部②「そうであるとすれば尚のこと、高い身分を有しない‥‥一般的議論が必要となるはずである」について、出頭保証人制度の基本的同一性を維持したまま、その適用を貴族以外のものにまで拡張した場合、「公共的義務」と個人の自由の関係にどのような変化が生じる危険性があると考えられるか。説明しなさい。(500字以内)
2019年は大問1が内容説明だけど、大問2は・・・意見かな?
「どのような変化が生じる危険性があるか」というのは、本文にないから自分で考えろという意味ですよね?
北海道大学 法学部 後期試験 2018年
大問1 問2 下線部②「転職を前提とした‥‥大きく変革していくと考えられる。」について、筆者が論じるこれからの日本企業のあり方とその利点を説明しなさい。(500字以内)
大問2 問2 下線部②にによれば、「熟議」と「人々がいだく感情」の関係は「誤解」されやすいという。どうして「誤解」が生じやすいのか、またそれに代えて筆者は両者をどのように関連づけているか。「熟議」と「感情」のそれぞれの機能を具体的に明らかにしつつ、説明しなさい。(500字以内)
2018年は2問とも筆者の主張を説明する問題ですね。
北海道大学 法学部 後期試験 2017年
大問1 問2 下線部②「地球は、人類の環境負荷を無期限に支えることはできないし、長期間支えることも困難である」と筆者は述べていますが、人類の計画的存続と計画的滅亡のどちらがわれわれにとって望ましいか、あなたの考えを述べなさい。論述に当たっては、それぞれについて望ましい点と望ましくない点を明らかにし、比較すること。(600字以内)
大問2 問2 下線部②「政治の「開かれてしまっている(閉じられない)」性格」のような政治の性格について、筆者が指摘している否定的な面と肯定的な面を説明しなさい。そのうえで、そうした筆者の指摘を前提とすれば、政治の専門家としての政治家にはどのようなあり方が求められることになるかを論じなさい。
2017年は大問1が「あなたの意見」、大問2は筆者の指摘を説明した上で意見を述べる問題ですね。
北海道大学 法学部 後期試験 2016年
大問1 問2 下線部②「この政治的自律性の‥‥皮肉な運命をたどったのである」のように、筆者は、政治家(芦田、石橋、鳩山ら)も知識人(丸山ら)もいずれも自由主義者(リベラリスト)であったにもかかわらず、政治勢力としては分裂するという皮肉な運命をたどったと捉えている。筆者がそのように捉える理由を、両者の共通点及び相違点に言及しつつ、説明しなさい。(500字以内)
大問2 問2 筆者は、下線部②において、ホップスの断言が必ずしも妥当するとは限らないという趣旨のことを述べている。筆者がそのように述べる理由を、クレデンダについて本文で指摘されている問題点に言及しつつ、説明しなさい。(500字以内)
2016年は2問とも筆者の主張を説明する問題ね。
以上をまとめると、次のようになります。
2023年 | 説明しなさい 説明しなさい |
2022年 | あなたの意見を あなたの意見を |
2021年 | 説明しなさい 説明しなさい |
2019年 | 説明しなさい どのような危険性があると考えられるか |
2018年 | 説明しなさい 説明しなさい |
2017年 | あなたの考えを 説明した上で、どのようなあり方が求められるか |
2016年 | 説明しなさい 説明しなさい |
説明だけの年度と意見を求める年度が交互になっているような・・・
そうなんです! ということは、2023年が内容説明だったからといって2024年も内容説明だけとは考えない方がよさそうですね。
「2024年は意見を求められるかも」というつもりで準備しておきます!
なぜ「内容説明だけの『小論文』」があるのか?
でも、なんで内容説明だけの年度と意見を求める年度があるんですか? 一貫性がないような・・・
ぶっちゃけ、いわゆるFランク大学と呼ばれる大学の推薦入試では、1ページくらいの文章を200字で要約するだけ、なんて問題もあります。
でも、北大ですよ。旧帝大です。何か理由があるに違いありません。
いくつかの可能性を考えてみました。
仮説その1 課題文の難易度に合わせたらこうなった?
課題文を選んでみたら意外と難しすぎて、「これは理解するので精一杯で、意見まで考える余裕ないかもな」と思ったので内容説明だけにした、という仮説です。
でも、それなら内容説明だけの年度と意見を求める年度がもっとランダムになるのが自然です。
きれいに交互になっているのは、何か他の理由があるのかも。
仮説その2 読解力のある学生と問題解決能力のある学生をバランスよく採りたいから?
内容説明は読解力、意見論述は問題解決能力が試されます。
どちらも大事な能力です。
だから内容説明ばかりでなく、1年おきに意見も求める・・・って、それなら大問1で内容説明、大問2で意見という形を毎年やればいいだけのこと。
1年おきにする理由にはなりません。
仮説その3 答案のレベルに振り回された結果?
意見をもとめる設問では、課題文が難しすぎたり設問の意図が分かりにくかったりすると、的はずれな答案が続出します。
筆者の主張を誤読したまま自分の意見を乗っけてしまったり、設問の条件を無視してしまったり。
(出題意図が比較的わかりやすい公務員試験でも、半数は「的はずれ答案」です)
すると、入試が終わったあとの教授会ではこんな会話が始まることでしょう。
意見を求めたら、まともな答案がほとんどなかったな
問1の内容説明で差をつけるしかなかったですねえ
だったら2問とも内容説明にしちゃいますか?
そして翌年、2問とも内容説明で出題すると・・・
内容説明だけにしたら、どの答案もちゃんと書けてるな
でも、逆に差がつきませんなあ。易しすぎましたかね?
では来年は意見も求めちゃいますか?
そして翌年、意見を求める出題をしたところ・・・
意見を求めたら、まともな答案がほとんどなかったな
問1の内容説明で差をつけるしかなかったですねえ
何これデジャヴ? やっぱり内容説明だけに戻しましょうか?
これが毎年くり返されていたりして・・・
あくまでも、憶測です。
今年はどんな対策が必要?
諸説ありますが、北海道大学法学部が意見を述べる問題を1年おきに出す理由は定かではありません。
でも大事なのは教授たちの事情ではなく、「今年は何が出題されるか」です。
過去数年のサイクルでいくと、2024年は意見を求める問題が出る可能性は高いといえますね。
意見、すなわち問題点を整理して解決策を出す練習をしておきましょう。
そして本番では、設問をよーっく読んで何が求められているのかを正しく理解することが大事です。
内容説明と意見論述、両方の練習をしておけば怖くないですよね!
過去問は最近のものだけでなく、数年分を通してみると発見がありますね
代々木ゼミナール講師時代、小論文を「文章表現ではなく問題解決の科目」と再定義することで合格率を倍増。総合型選抜・学校推薦型選抜の個別指導では早慶医学部を含む第一志望合格率が9割を超える。1万5千本以上の添削指導を通して受験生の「書けない心理、伝わらない原因」を知り尽くす。
そのノウハウをまとめた参考書「何を書けばいいかわからない人のための小論文のオキテ55」(KADOKAWA)はシリーズ25万部超のベストセラーとなる。またNHK Eテレ「テストの花道」出演、朝日小学生新聞・朝日中高生新聞の連載などメディアでも活躍。
現在は文章スキルと問題解決の講師として大手企業の社員研修に数多く登壇。受験のみならずビジネスでも通用するメソッドであることを証明している。
東北大学大学院文学研究科修了。合同会社ロジカルライティング研究室代表。
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