YouTubeチャンネルに質問をいただきました。
たしかに、4つも資料を出されて「総合的に」と問われたら、キャパをオーバーしそうですね(笑)
でも大丈夫! グラフの基本を押さえていれば、それぞれの資料の出題意図が見えてきます。
徳島大学医学部保健学科2013年後期の小論文
問題 下記に示した表1および表2ならびに図1および図2は、日本における人口動態統計に関する資料です。これらの図表をふまえて、次の問いに答えなさい。
問1 表1および表2、図1および図2から総合的に読み取れる内容を200字以内で書きなさい。
問2 読み取れた内容をもとに、これらの社会現象をどのように考えますか。あなたの意見を300字以内で述べなさい。
「資料の説明」「あなたの意見」を区別しよう
設問が2つありますね。
資料問題では問1が「資料の説明」、問2が「あなたの意見」という形式が一般的です。
問1に自分の意見をぶち込んではいけませんよ。
問2で資料の説明を始めるというのもダメです。
問1「資料から総合的に読み取れること」
では、問1の4つの資料の説明からいってみましょう。
表1 一番大きな「ギャップ」に気づこう
表1は「出生順位別出生数の構成割合」つまり第一子(長男or長女)と第二子、第三子・・・の割合です。
一番上の昭和25年を見ると、第一子の割合が27.2%。つまりクラスのうち長男・長女は4分の1くらいで、他はお兄ちゃん、お姉ちゃんがいる子たちということです。
それが平成12年になると第一子の割合が49.0%、つまりクラスの半分が長男・長女になっています。
一方で第三子以降の割合は昭和25年の44.8%から平成17年の14.2%と減っていますね。
簡単にまとめると、「世帯あたりの子どもの数が減っている」ということになります。
ここまでが表1から最低限読み取るべき内容。
実は、表1にはもう一つ気づいてほしいポイントがあります。
グラフを読むときのルールの一つが「最も大きな差(ギャップ)を見る」ということ。
第一子の割合は「だんだんと増えている」わけではありません。
よく見ると昭和25年と35年のあいだで急に増えています。むしろ昭和35年以降は横ばいに近い。
第三子以降の割合も同様ですね。35年からガクンと下がっています。
つまり「だんだんと増えてきた、減ってきた」というよりは「昭和25年が特殊だった」といえそうです。
この昭和25年、どういう時代かというと・・・
昭和20年(1945年)に第二次世界大戦(太平洋戦争)が終わって、毎晩空襲におびえることもなくなり、戦地から男たちも帰ってきました。
ようやく結婚や子作りができる時代になったわけです。
それによって出生率、出生数が爆上がりした数年間を「ベビーブーム」と呼びます。
戦後の数年間は5人兄弟、6人兄弟も珍しくなかったそうですよ。
表2 出産年齢が遅くなっている理由は?
表2は第一子〜第三子を産んだときの母親の年齢です。
第一子を産んだ年齢が24.4歳から29.9歳まで、5.5年延びていますね。
出産できる年齢には限りがあるので、第一子を産むのが早いか遅いかというのは子どもの数に関係します。
一方で、右端の数字は「結婚してから第一子を産むまでの期間」。これは1.79年から2.24年と0.5年(半年)延びています。
あれ?
第一子を産む年齢が5年半も延びているのに、結婚してから第一子を産むまでの期間は半年しか変わっていない。
ということは、
結婚そのものが遅くなっていると考えられますね。いわゆる「晩婚化」です。
表2のまとめは「結婚も第一子出産も遅くなっている」となります。
図1 グラフに「あること」と「ないこと」に気づく
少子化のテーマではよく見るグラフですが・・・
「出生率と出生数がだんだん減っている」という読みではまだまだです。
グラフを見るときは「一番大きなギャップ」つまり「抜きん出ているところ」に注目しよう。
グラフの一番左が突出しているじゃないか。第一次ベビーブームが!
表1のところで説明した、戦争中に結婚も子作りもできなかった反動です。
このグラフにはもう一つ、抜きん出ている部分がありますね。
昭和50年頃の第二次ベビーブームです。
これは直前に戦争があったわけではなくて、
第一次ベビーブームで生まれた人たちが25年くらい経って一斉に親になったからです。
第一次ベビーブームと第二次ベビーブームの関係がわかると、
このグラフには「あるべきものがない」ことに気づきますか?
第二次ベビーブームで生まれた人たちが大人になった1990年代後半に「第三次ベビーブーム」が起きているはずなんです。
でも実際は・・・出生率も出生数もじりじり下がっていく一方ですね。
ベビーブームは起きていなかった。
第二次ベビーブーム世代が出産しなくなったのか、タイミングがバラバラなのでかつてのようなピークを描かなくなったのか、その辺はグラフからははっきりわかりませんが、
いずれにせよ、図1のまとめは「第二次ベビーブーム世代が一斉には親にならなかった」といえますね。
図2 折れ線グラフは「増減」を見る
このグラフを見て「25〜29歳での出生率が高い」と早合点してはいけませんよ。たしかにこの年代は高いですが。
折れ線グラフは「変化=増減」を表すためのグラフです。数量が多いか少ないかではなく、どの線が増えているか減っているかに注目しましょう。
すると、20〜24歳と25〜29歳が減っていて、30〜34歳と35〜39歳が増えていることがわかります。
つまり図2のまとめは「20代での出産が減り、30代での出産が増えている」となりますね。
資料を説明したら「以上より〜」とまとめる
問1では「表1より〜」「図2では〜」という形ですべての資料について説明した上で、「以上より〜」と全体のまとめ(総合的に読み取れること)を書きます。
表1:世帯あたりの子供数が減っている
表2:結婚も第一子出産も遅くなった
図1:第2次BB世代は一斉には親にならなかった
図2:20代の出産が減り30代が増えた
これらをまとめると、「20代で出産しにくくなっている」といえそうです。
その理由は「晩婚化」や「仕事と両立しにくい」などが考えられますが、問1でそこまで踏み込んでもいいですし、問2に回しても構いません。
問2「あなたの意見を述べなさい」
さあ、いよいよ問2「あなたの意見」に突入です。問1と比べて「小論文らしい」パートですね。
が、ちょっと待った!
いつもの「800字」とかなら「三段落構成で」というところですが・・・
今回は問2が「300字」なんですね。
100字ずつの三段落構成って、ちょっと細かすぎる気がしません?
問2が「300字」のときの段落構成
小論文の基本構成は「問題提起/原因分析/解決策」の三段落構成です。
問1の資料説明は問題提起みたいなものなので、残りの原因分析と解決策を問2に割り当てたらどうでしょう?
①問題提起 ←問1(200字)
②原因分析 ←問2の前半(150字)
③解決策 ←問2の後半(150字)
これなら「問題提起/原因分析/解決策」それぞれをバランスよく論じることができそうですね。
「すごいこと」を書かなくても合格圏
問1の「総合的に読み取れること」が「20代で出産しにくくなっている」という問題提起なら、
問2の原因分析と解決策は「なぜ20代で出産しにくいのか」「20代で産みやすくするにはどうするか」という方向性になりますね。
ここから先は自由に考えてOK。
とはいっても、だいたいこんな方向性になるんじゃないでしょうか。
原因分析
20代で出産しにくくなっているのは、女性の高学歴化によって晩婚化していることと、20代では仕事と出産を両立しにくいことが原因である。大卒で就職した場合、22歳からの数年間は仕事を覚えて一人前になる期間である。このため出産や育児で仕事を休むのはキャリア形成において不利になりやすく、後回しにされるのである。
解決策
したがって、仕事と出産を両立しやすい環境を作るべきである。これには育児休業を取りやすくする取り組みと同時に、仕事を休まず続けられるように保育をサポートする取り組みも必要である。たとえば保育所を増やすだけでなく、ベビーシッターを利用しやすくしたり、地域の住民同士で育児を手伝える仕組みが考えられる。
資料問題の場合、問2で「すごいアイデア」を書かなくても大丈夫です。
問1が正しく書けていれば、ほぼほぼ合格圏です。
問1がちゃんとしていれば、自動的に問2の方向性は決まりますから。
時間配分はどうする?
徳島大学医学部保健学科の小論文は試験時間60分。
資料が多い割に書く字数は少ないので、資料の解釈(+まとめ)を考えるのに30分使いましょう。
この段階で問1の内容は決まるので、10分あれば200字書けるはずです。
残りの20分を問2に使います。もう方向性は決まっているはずなので大丈夫。
もし問2で何を書くかフラフラ迷うとしたら、それは問1が正しく書けていないときです。
図1のベビーブームや図2の30代が増えていることに気づかなかったりすると、「なんとなく少子化が進んでる」程度の解釈になってしまいますからね。
まとめ
②折れ線グラフは「多い/少ない」ではなく「増えた/減った」を見る。
③「あるべきなのに、ないもの」に気づくと高ポイント。
④問1ですべての資料に言及すること。
⑤問2の字数が少ないときは問1、問2を合わせて三段落構成に当てはめる。
YouTubeでも解説しています!
代々木ゼミナール講師時代、小論文を「文章表現ではなく問題解決の科目」と再定義することで合格率を倍増。総合型選抜・学校推薦型選抜の個別指導では早慶医学部を含む第一志望合格率が9割を超える。1万5千本以上の添削指導を通して受験生の「書けない心理、伝わらない原因」を知り尽くす。
そのノウハウをまとめた参考書「何を書けばいいかわからない人のための小論文のオキテ55」(KADOKAWA)はシリーズ25万部超のベストセラーとなる。またNHK Eテレ「テストの花道」出演、朝日小学生新聞・朝日中高生新聞の連載などメディアでも活躍。
現在は文章スキルと問題解決の講師として大手企業の社員研修に数多く登壇。受験のみならずビジネスでも通用するメソッドであることを証明している。
東北大学大学院文学研究科修了。合同会社ロジカルライティング研究室代表。
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