現代文の文章って、小論文のお手本になりますか?
偉い先生の文章だから、真似したら無敵ですよね?
残念ながら、お手本にはなりません! 現代文で出される文章は、小論文的には「悪文」だからです。
現代文は小論文のお手本にならない!
現代文の入試問題で出される文章を小論文の「お手本」にしてはいけません。現代文の問題にはいわゆる「悪文」が選ばれるからです。
いい文章(=わかりやすい文章)を出題したら、誤読する人がいなくて点差がつきませんからね。
現代文の出題者が大好きな「悪文の要素」ワースト4をご紹介しましょう。
著者の学説、価値観が書かれている
現代文(評論)の試験問題に採用される著者の多くは学者や評論家です。その文章は独自の学説や価値観、つまり主観。
これに対し、小論文では現実的な問題に対する解決策が求められます。個人的な主観ではなく、読み手を説得できる客観的な文章を書かなければなりません。
つまり、現代文と小論文はそもそも方向性が正反対なのです。
誤読を招く「AB文」で書かれている
あまり知られていませんが、現代文の問題に選ばれる文章は「良い文章」ではなく「悪文」です。読み手の解釈が2つに割れるような紛らわしい表現を含む著者が出題者に好まれます。
特に現代文で多いのが「AB文」と呼ばれる構造です。
西洋の文化は〜だが、日本人は〜。日本が〜である一方で西洋では〜。しかるに我が国の〜に対し、彼の国では〜。
西洋の話(A)と日本の話(B)、逆の内容がA、B、A、B…と交互に登場します。これが「AB文(エビ文)」。
ぼんやり読んでいると、AとBがごっちゃになって混乱してしまいます。(読み手は「自分が混乱した」とは気づきません。「つまらない、眠くなった」と感じるだけです)
小論文では「AB文」を書いてはいけません。2つの内容を対比するなら「段落を2つに分ける」か、「1段落の中で前半/後半にはっきり分ける」のがルールです。A、B、A、B…と行ったり来たりするのはNGです。
箔をつけるための引用
現代文の入試問題によく見られるのが引用。文中で他人の言葉を紹介することです。
「恋愛が面倒なのは、それが共犯者なしではすまされない罪悪だという点にある」といったのはフランスの詩人ボードレールであるが・・・
この現代の社会構造こそ、マルクスのいう「労働の疎外」そのものなのである。
現代文で引用が登場したら、それを筆者が肯定しているのか否定しているのか、または部分的に否定しているのかが設問で問われます。
それくらい、誤読する人が多いということです。
大学の卒業論文なら、引用をたくさん入れて「俺、こんなに文献読みました!」とアピールすることも大事です。英語の論文が多ければ箔がつきます。
でも受験の小論文では「自分の意見を自分の言葉で述べる」ことが求められます。他人の言葉を引用しても自分の評価は上がりません。
3部構成ではなく「前半/後半」の2部構成
小論文は「問題提起/原因/解決策」または「メリット/デメリット/解決策」の3段落構成で書きます。各段落300字で合計1000字以内になりますね。
3つの段落の役割がはっきり決まっているところがポイントです。
一方、現代文の問題文は4000字前後。その構成はというと・・・「前半/後半」の2部構成なんです。
試験に出る文章は必ず、途中で話題が変わるようになっています。新しいキーワードが登場したり、前述の「AとB」の組み合わせが変わったり。
出題者は本1冊の中から「話題の変わり目を含む6〜7ページ」を抜粋しているのです。
なぜなら、話題の変わり目に気づかず後半を読み取れない受験生が半分くらいいるから。
小論文の「問題提起/原因/解決策」とは文章の構成がまったく違うわけです。
現代文が小論文の役に立つケース
では現代文の勉強はまったく無駄なのでしょうか?
そんなことはありません。現代文が小論文の役に立つケースが2つあります。
課題文を読むトレーニングになる!
日本の大学入試の小論文の最大の特徴、それは膨大で難しい課題文が出されることです。
小論文入試は「学力試験免除」ではなく、課題文の読解力という学力試験そのもの。
現代文で長い文章を読むことに耐性をつけること、いろいろな分野の文章に触れて視野を広げておくことは課題文型の小論文には大いに役立ちます。
下線部説明の練習になる!
共通テストはマークシートだけですが、国公立の二次試験では記述問題がありますよね。
問1 傍線部①について、筆者がこう述べる理由を80字以内で説明せよ。
みたいな設問です。
実は課題文型の小論文も内容説明を求める設問がよく出題されます。
問1 下線部①とはどういうことか、論旨に即して100字以内で説明せよ。
問2 下線部②について、筆者がこう述べる理由を100字以内で説明せよ。
問3 筆者が指摘する現代社会の閉塞感について、あなたの考えを600字程度で述べよ。
しかも実際の入試では問1、問2の内容説明問題で合否が半分決まります。
問1、問2でトンチンカンなことを書いてしまうのは「課題文を正しく読めなかった人」。すると問3の「自分の意見」でどんなに頑張っても、それは「出題者が求めるものとは違う、的外れな意見」になってしまうわけです。
まとめ
- 現代文の文章は小論文のお手本にならない
- でも課題文の読解と内容説明問題の練習にはなる
代々木ゼミナール講師時代、小論文を「文章表現ではなく問題解決の科目」と再定義することで合格率を倍増。総合型選抜・学校推薦型選抜の個別指導では早慶医学部を含む第一志望合格率が9割を超える。1万5千本以上の添削指導を通して受験生の「書けない心理、伝わらない原因」を知り尽くす。
そのノウハウをまとめた参考書「何を書けばいいかわからない人のための小論文のオキテ55」(KADOKAWA)はシリーズ25万部超のベストセラーとなる。またNHK Eテレ「テストの花道」出演、朝日小学生新聞・朝日中高生新聞の連載などメディアでも活躍。
現在は文章スキルと問題解決の講師として大手企業の社員研修に数多く登壇。受験のみならずビジネスでも通用するメソッドであることを証明している。
東北大学大学院文学研究科修了。合同会社ロジカルライティング研究室代表。
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